革ジャンについて調べていると、「クロムなめし」「タンニンなめし」という言葉を目にします。では、そもそも「なめし」とは何なのでしょうか。
なめしは、動物の皮を腐敗しにくく、製品として使える「革」に変えるための重要な工程です。革の種類とは別に考える必要があり、革ジャンの質感や仕上がりを理解するうえでも重要なポイントになります。この記事では、東京都立皮革技術センターや日本タンナーズ協会の資料をもとに、なめしの仕組みをできるだけやさしく説明します。
この記事の要点
- なめしは、皮のコラーゲンの分子どうしを「橋をかけるように」つないで安定させる処理
- クロムなめしは短時間ででき、柔らかく熱に強い。革製品の約85%がクロムベースとされる
- タンニンなめしは時間がかかり、伸びにくく形がつきやすい。日焦けによる色の変化を楽しめる
- 実際には「クロムでなめしてタンニンで再なめし」などの組み合わせも多い
- 革の風合いは、なめしだけでなく染色・加脂・仕上げでも大きく変わる
そもそも「なめし」とは?
動物から剥いだばかりの皮は、そのままでは腐敗しやすく、安定して製品に使うことができません。そこで、薬剤などを使って皮の性質を変化させ、保存性や耐久性を持たせます。この一連の処理が「なめし」です。
もう少し詳しく見ると、皮の主成分は「コラーゲン」というタンパク質です。なめし剤はこのコラーゲンの分子と分子のあいだに結びつき(架橋)を作り、構造を固定します。これによって腐りにくくなり、柔らかさ、通気性、熱への強さなどが生まれます。どのなめし剤も「コラーゲンどうしをつなぐ」という点は共通で、つなぎ方の違いが革の性格の違いになります。
分かりやすい指標が「熱への強さ」です。東京都立皮革技術センターによると、哺乳類の生皮は約60℃で熱によって縮みますが、なめした革はこれより高い温度まで耐えられるようになります。その上がり幅が、なめし方によって違うのです。
なめしの方法や、その後の染色・加脂・仕上げによって、革の柔らかさ、張り、手触り、表情などは変わってきます。

革になるまでの大まかな流れ
- 原皮を準備する
- 不要な組織や毛などを処理する
- なめしを行う
- 染色や加脂などの処理を行う
- 乾燥、伸ばし、仕上げなどを行う
- 用途に合わせた革に仕上げる
実際の製革工程は原皮や製品、工場によって細かな違いがありますが、大きく見るとこのような流れで皮が革へと変わっていきます。日本タンナーズ協会の解説をもとに、もう少し細かく分けると次のようになります。
| 段階 | おもな作業 | 何のためにするか |
|---|---|---|
| 準備工程 | 水漬け、裏打ち、脱毛・石灰漬け、分割、脱灰・酵解 | 汚れ・肉片・毛・表皮を取り除き、コラーゲン繊維をほぐす。銀面と床皮の二層に分ける |
| なめし工程 | 浸酸、なめし、水絞り、シェービング | なめし剤を均一にしみ込ませて革にし、肉面を削って厚さをそろえる |
| 染色・加脂工程 | 再なめし、中和、染色・加脂 | 用途に合った性質を足し、色をつけ、油で柔らかさを与える |
| 仕上げ工程 | 乾燥、ステーキング(もみほぐし)、塗装、艺出し・型押し | 手触りを整え、色・艺・耐久性を加える |
この流れを見ると、「なめし」は製革の中のひとつの工程にすぎないことが分かります。その後の再なめしや加脂、仕上げでも、革の硬さや表情は大きく変わります。
クロムなめしとは?
クロムなめしは、クロム塩を使って行う代表的ななめし方法です。現在の革製品では広く利用されており、革を比較的短い時間でなめすことができる点などが特徴です。
- 現在の革製品で広く利用されている
- 比較的効率よくなめしを行える
- 柔らかくしなやかな革にも仕上げやすい
- 染色や仕上げによって幅広い表情を作れる
日本タンナーズ協会の解説では、使われるのは「塩基性硫酸クロム」という薬剤で、1858年にドイツで開発された比較的新しい技術です。大きなドラム(回転する樽)に皮と薬剤を入れて回すため短時間で仕上がり、大量生産に向いています。同協会によれば、革製品の約85%がクロムベースで作られています。なめした直後の革は青みがかっていて、「ウェットブルー」と呼ばれます。
よく話題になるのが「クロムは体に悪いのでは?」という点です。東京都立皮革技術センターによると、なめしに使われるのは3価クロムで、人体に必要な微量元素でもあり、毒性はほとんどないとされています。有害とされるのは6価クロムです。ただし、使い終えたクロム革を焼却すると一部が6価に変わる可能性があり、これがクロムを使わない「非クロムなめし」が開発された背景のひとつとされています。
革ジャンに使われる革でもクロムなめしは珍しいものではありません。ただし、「クロムなめしだから必ず柔らかい」というように、なめし方法だけで革の性質を決めることはできません。たとえばルイスレザーのクロムなめし牛革は、同社の説明では「なじむまでに時間がかかる」とされています。
タンニンなめしとは?
タンニンなめしは、植物などに含まれるタンニンを利用する方法です。古くから行われてきた伝統的ななめし方法の一つで、革の種類や工程によっては、しっかりした張りや独特の質感を持つ革に仕上がります。
- 植物由来のタンニンを利用する
- 伝統的ななめし方法の一つ
- 張りやコシのある革に仕上がる場合がある
- 使い込むことで色や艶の変化を楽しめる革もある
日本タンナーズ協会によると、タンニンの原料にはミモザ、ケブラチョ、チェストナットなどの樹木が使われ、種類によって色や性質が少しずつ変わります。濃さの違うなめし液の槽に、薄いものから順に漬けていく「ピット製法」では、なめしに数か月かかることもあります。染色や仕上げをせず、タンニンでなめしただけの革が「ヌメ革」です。
性質としては、クロムなめし革に比べて伸びや弾力が少なく、熱にはやや弱い一方、力を加えた形を保ちやすい(可塑性がある)のが特徴です。革ジャンで「着る人の体の形が残る」と言われるのは、この性質と関係があります。また、日焦けによる色の変化が出やすく、経年変化を楽しめると説明されています。
クロムなめしとタンニンなめしの違い
| 項目 | クロムなめし | タンニンなめし |
|---|---|---|
| 主ななめし剤 | クロム塩(塩基性硫酸クロム) | 植物由来のタンニン(ミモザ、ケブラチョ、チェストナットなど) |
| 歴史 | 1858年にドイツで開発 | 古代エジプト時代からとされる最も古い方法 |
| かかる時間 | 短い(ドラムで短時間に仕上げる) | 長い(ピット製法では数か月に及ぶことも) |
| なめし直後の色 | 青みがかった色(ウェットブルー) | タンニンによる茶系の色 |
| 熱への強さ(水中で縮み始める温度) | 約80〜120℃ | 約70〜90℃ |
| 伸び・弾力 | 柔軟で伸びやすい | 伸びや弾力が少なく、形を保ちやすい |
| 特徴 | 幅広い革に仕上げやすい。染色性・保存性がよい | 張りや独特の質感を持つ革に仕上がる場合がある |
| 利用 | 現代の革製品で広く利用(靴の甲革、袋物、衣料など) | 伝統的な革づくりなどで利用(底革、ヌメ革、クラフト革など) |
| 経年変化 | 仕上げや革によってさまざま | 色艶の変化が分かりやすい革もある |
熱への強さの数字は「濡れた状態」で測ったものです。同センターによると、普通に乾いた革(水分約15%程度)は約120℃以上に耐えますが、水に濡れると耐熱性が下がります。濡れた革ジャンをストーブやドライヤーで乾かしてはいけないのは、このためです。一度熱で変質した革は硬くもろくなり、元には戻りません。
組み合わせる「コンビネーションなめし」と非クロムなめし
現在の革は、ひとつのなめし剤だけで作られているとはかぎりません。日本タンナーズ協会は、クロムでなめしたあとにタンニンなどで「再なめし」をする「コンビネーション(複合)なめし」を紹介しています。単独のなめしでは得られない性質を加えたり、それぞれの弱点を補ったりできるため、重要性が増しているそうです。
また、東京都立皮革技術センターによると、クロムを使わない「非クロムなめし」には、アルミニウムやジルコニウムなどの金属、アルデヒド類、合成なめし剤、植物タンニンなどが使われます。アルミニウムやアルデヒドは単独では性能が足りないため、他のなめし剤と一緒に使われることが多いとされています。
革ジャンの例として、ルイスレザーはカスタムオーダー用に、クロムなめしの牛革・馬革、金属を使わない「クロムフリー」の牛革、植物タンニンなめしの牛革や羊革を並べています。植物タンニンなめしの牛革は、なめしたときの自然な茶色の上から表面だけを染める作りで、着込んで表面が擦れると下の色がのぞきます。いわゆる「茶芯」の考え方です。
「革の種類」と「なめし」は別のもの
ここは革ジャンを理解するうえで特に重要です。シープスキン、ホースハイド、ステアハイドというのは、基本的に「どの動物の皮か」という分類です。一方、クロムなめしやタンニンなめしは「その皮をどのようになめしたか」という分類です。
つまり、同じ牛革でもなめし方法や仕上げが違えば、まったく違った表情の革になります。革ジャンを見るときは、革の種類だけでなく、なめしや仕上げにも注目すると、より深く理解できるようになります。

革ジャンを見るときに注目したいポイント
- 革の種類は何か
- なめし方法は何か(再なめしの有無も含めて)
- 革の厚みはどのくらいか
- どのような染色・仕上げが施されているか
- 実際に触ったときの張りや柔らかさはどうか
スペックだけでは分からない部分も多いため、実物を見るときは、手触りやシワの入り方、光の当たり方まで観察すると面白いものです。
クロムとタンニンの二択では説明できない革もある
日本の革に関する基礎解説では、複数のなめし方法を組み合わせる考え方も紹介されています。「クロムかタンニンか」という二分類だけで、すべての製品の性質を説明しきれるわけではありません。
日本皮革産業連合会の皮革用語辞典も、用語を確認する手がかりになります。なめしの種類に加え、再なめしや染色、表面仕上げの情報を読むと、同じ分類でも風合いが違う理由を考えやすくなります。
購入時には、なめし方法を優劣の順位として使わず、希望する手触りや色の変化、日常の扱いやすさと照合します。水への強さや手入れ方法は分類だけで決めず、完成品のメーカー指定を優先してください。
よくある質問
Q. クロムなめしの革ジャンは体に悪くないですか?
なめしに使われるのは3価クロムで、東京都立皮革技術センターは毒性はほとんどないと説明しています。有害とされる6価クロムとは別のものです。ただし、金属アレルギーがある人は、購入前に販売店や医師に相談すると安心です。
Q. タンニンなめしのほうが高級ですか?
手間と時間がかかるため価格が上がりやすいのは事実で、ルイスレザーも植物タンニンなめし牛革を自社で最も高価な革としています。ただし「高い=自分に合う」ではありません。柔らかさや軽さを重視するなら、クロムなめしの革が向くこともあります。
Q. 自分の革ジャンのなめし方を知るには?
ブランドの公式サイトや商品タグ、販売店の説明を確認するのが確実です。見た目や切り口の色だけでは、再なめしや染色の影響もあるため断定できません。分からないときは、購入した店に問い合わせてみましょう。
まとめ
「なめし」は、皮を革へと変えるための重要な工程です。クロムなめしとタンニンなめしにはそれぞれ特徴があり、さらに染色や加脂、仕上げによって革の表情は変化します。
革ジャンを深く知るなら、「何の革なのか」だけでなく、「どうなめされ、どう仕上げられた革なのか」まで見ることが重要です。
Leather Archiveでは、こうした革ジャンの素材や製法について、実物を見ながら少しずつ記録していきます。
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次に読む: 革ジャンの革の種類を徹底解説 革ジャンはどう作られる? 革ジャンの経年変化とは? Schottワンスター4モデルの革の違い
参考:東京都立皮革技術センター|革のQ&A 日本タンナーズ協会|皮から革になるまで 日本タンナーズ協会|なめしの種類 日本皮革産業連合会|皮革用語辞典 Lewis Leathers公式|Custom Ordering(2026年11月確認)

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